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♪人間の証明 のテーマ 【1977】

横川駅にたむろする峠の青いシェルパたちの姿を横目に、国道から碓氷
バイパスには入らず旧道にそれる。
中山道が坂本宿を貫き、碓氷峠に向けてにわかに深山の気配を濃くする
あたり、霧積川に沿う温泉への細道に分け入る。川のせせらぎと鳥のさえ
ずりしか聞こえないフィトンチッドの海が広がる。

  ♪ Mama,  do you remember
                     the old straw hat you gave to me~

*********

作詩: 西條八十 / 英詩: 角川春樹・ジョー山中 / 作編曲: 大野雄二
 

この作家陣構成がなにやらわかりにくいが、西條八十の詩をモチーフに
英詩化、メロディがついたわけであって、原詩での歌唱ではないから、
この楽曲に関しての「作詩」というのは少々キビシイ感じがする。
とはいえこの 『ぼくの帽子』 に映画の主題を織り込んだ英詩としては、
これ以外にないのではないかと思わせる。

とくに冒頭の "♪Mama do you remember~" の部分は簡潔にして秀逸
だと思う。ブツ切り英語だと誰かが言っていたが、それはどうでもよい。
(ブツ切り英語って何だろ?)

******************

  Yuji Ohno & His Project

     大野雄二 (ep)
       市原康 (ds)
         後藤次利 (b)
           松木恒秀 (ag)     
             石間秀樹 (eg)
               篠原信彦 (hamond.O)
                 栗林稔 (pf)
                   穴井忠臣 (perc)
                     ジョー山中 (vo)

まずもってこのメンツが大変珍しいのだが、録音当時の現場の様子が
エンジニアの 伊豫部富治氏のHPに記されている。非常に生々しくて
ステキな現場だが、これを目にして一番気になるのは・・・
一旦帰りかけた後藤次利が どんな顔して戻ってきたかである(笑

そんな空気の中の一発OK ラストテイクが、全国の劇場のスピーカー
を鳴らしたというのが、なんとも興味深い。
まあ実際にはこのラストテイクは、サントラ盤に収録されシングルカッ
トされたテイクのことで、映画本編中のクライマックス(岡田茉莉子が
帽子を放つシーン)で流れたものとはまた別モノなのだが、なにしろ
演奏の緊張感が物凄い。ぜひ居住まいを正してから聴きたい。

前奏のピアノにジョー山中の声が乗り、リズムの後藤&市原が滑り
込んでくるあたり、伊豫部氏によって明かされたエピソードを知らなく
とも、ミュージシャンたちの精神集中を感じ取れる。
若い後藤のベースは繊細かつ大胆で、細かい一音一音がたいへん
意味深い感じがするし、これにからむ市原のドラムのチューニングは
『犬神家~』 辺りから80年代初頭までの大野サウンド絶頂期を彩る
特徴的なソリッド感にあふれており、その懐深い音色に心囚われる。

実際にはそんなことはないのだが 「ハシったりモタったりのうねり」
みたいな味わいが楽曲の端々に行き渡っており、それが母親への
想いを抑え切れなかった若者の姿にシンクロしてくるようだ。
彼の母親に対する愛情表現がストレートであればあるほど不器用で
あればあるほど、結末のやるせなさが増幅されるけれど、そんなとこ
ろは計算ずくであろう、間奏に挿入される石間のストレートでバタ臭い
ギターソロが見事に Johnny Hayward を演じている。

穴井忠臣のラテンはこれまた精神的な痛みや葛藤といった内面的な
表現、心の内側をなぞるようなプレイを聴かせ、制約の中での奔放な
コンガはどこか民族的な鎮魂の踊りを思わせる。この物語の主題とも
なる 「血」や「縁」といった人間の本能的な結びつきを、じつは最もよく
表現しているのが、ぺぺ穴井のコンガであろう。

サントラ盤収録の他曲にもウェットなものがあるけれど、このテーマは
それらの比ではなく、かなりどっぷりと感情の湖水に浸かっていて、
ビショビショである。濡れているかどうかはともかく、「魂の演奏」という
形容が相応しいように思う。

サントラ盤ではこのテーマの次に "♪霧積温泉への道" という曲が配置
されているのだが、弦の上をしなやかにすべる指が見えるようなべース
のリフに導かれるように展開される非常に開放的で、緑色の風を感じる
ナンバーであり、先のテーマ曲が残した精神的な湿り気をサッと乾かし
ていくようだ。

*******

映画、人間の証明。
「映画とはゲイジュツである」 という四角いヒト向きには出来ていないの
だが、基本的に娯楽モノ一般ウェルカムな私からすれば、大変面白い
作品である。 夢のような豪華キャストからも 間違いなく娯楽超大作(笑 

で、劇場予告編を観る機会があった。
劇中のジョニー・ヘイワードの子供時代を演じたジョー山中のホントの
息子さんの顔アップをバックに 「人間の証明」 のタイトルロゴが画面下
方からグイッグイッといくつも出てくるシーンで、それは終わる。
またその子の表情といったら、それはそれは言い知れぬ哀しみにあふ
れていて、まるでこの物語の肝はおさえてますよ、といった風情である。

*******

六角風呂に入ろうと、きりづみ館に行った。
平日だったので他に客もおらず、がらんとした霧積の湯に浸かった。

ほかにもう一軒旅館があるだけで何もないところではあるが、明治の頃
には40軒以上の旅館が建ち並ぶ一大避暑地だったという。軽井沢開発
以前、多くの人で賑わったというのがにわかには信じがたく、中山道を
逸れてここまでの細道の情景を思うにつけ、想像ができない。かつての
栄華の痕跡そのものがなくて、イメージが湧かないのである。
1910年に起こった山津波でリゾート地ひとつまるごと壊滅したというわけ
で、どこかポンペイの話のようでもあるが、埋まったまま出てこないという
のが、そこには確かにあったのだという昔話の物語性をふくらませている。
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当時の人力車の破れた幌でも落ちていないかと草むした地面に目を凝ら
してみたが、何も落ちていないかわりに、蟻の群れが干からびた尺取虫
を運搬するのが見えた。

幼い西條八十の帽子をさらっていった風がどのあたりで吹いたのか、
私としてはそちらのほうも気になる。       
                                (1993年盛夏)

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コメント

TBできたんですね!昨晩トライしたときは前回同様できなくて傷心のまま眠りについたのですが、よかった♪
9試合増え、そして開幕戦は札幌とのJ2の日程を知り、いささか弱ってた身には何よりの救いであります。

以前、坂口良子云々でコメントした際の鑑賞で、前半のファッションショーのBGMが耳に留まっていました。時代の映し方と作曲者の個性の融合が見事だなと思って。あれも大野作品なんでしょうか?

堀ちえみちゃん云々でしか知らなかった後藤次利、新たに認識できて感謝です。

投稿: ぐれた | 2009.02.07 20:22

TBありがとうございます、TBの障害はきっと不況のせいです。
また観てしまいました。ファッションショーの音楽もやはり同氏です。あのシーンはやたら長い♪
そう、後藤次利ってのは非常に上手いんだけれど女性にはだらしない、と。古くは木之内みどり事件の頃、子供だった私も感づいてました(笑

さて、Jリーグ問答無用の自動入替枠三つ、これは相当デカイ、いや、まあその、楽しみです・・・
今年の個人的な期待としては "J2出身FW(藤田石原)の二桁得点達成" これに尽きます。
開幕まであとひと月、大人しく待つことにしましょう。

投稿: FLAT4 | 2009.02.09 14:34

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» FOREVER!「人間の証明」 [ぐれた]
数ヶ月前の話になりますが、「人間の証明」をテレビでリメイクするに当たっての竹野内豊のインタビューを新聞で読みました。彼いわく松田優作のオリジナルは知らないとのこと。知らないって……、びっくりしました。でも、彼の年齢からして無理もないか。私だって当時はまだ○○歳だった。そうだよねーと思う一方、彼の年まであの作品を見たことがないと。ビデオで見たこともないんかい!?松田優作にはまったりして「人間の証明」も夢中になって見た役者志望の若者も大勢いるでしょうに、知らないっちゅーやからが棟居を演じる。何...... [続きを読む]

受信: 2009.02.06 22:33

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